徒然草

つれづれにさまざま書いています。

「雷神」・道尾秀介 著

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雷神

    道尾秀介  著 2021年5月25日 発行 
       
          新潮社

 

 

藤原幸人(ゆきひと)は、悦子と結婚、そして夕見が生まれた。
会社が倒産し、父の経営している和食料理店「一炊(いっすい)」を手伝う事になった。
夕見は4歳、アパートのベランダで「アザミの鉢植え」を見ていたりした。

夕見の母の悦子が買い物に出ると言い、幸人は夕見をベランダで遊ばせた。
自分の買い物を悦子に頼めばよかった、と、夕見を部屋に残し 幸人が悦子を追いかけて外に出た時だった。
”何か”が目の前をに落ちてきた。それが偶然通りかかった軽自動車のフロントガラスを直撃し、それに驚いた軽自動車が誤って悦子を跳ね飛ばした・・・

粉砕されたフロントガラスを割った物体、それは4歳の夕見が見ていたベランダに置いた、あのアザミの鉢植えだった・・
「お花って、お日様に当てた方が大きくなるんだよ」と言って夕見が置いた鉢植えは、もはやベランダには無かった・・

 

幸人と夕見は、母、悦子を一瞬にして亡くした。
幸人は「アザミの鉢植え」の事を生涯夕見には話すまい・・と決心をした。

 

 

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31年前・・
羽田上村で父と母は小さな居酒屋をやっていた。
村は鉄鋼業とキノコが産業基盤だった。両親がやっていた居酒屋は「英」。「はな」と呼ぶ。
村の雷電神社の神鳴講でコケ汁を作り、みんなで食べるのが楽しみな村、その宵宮の夜
母が消えた。道もない山の中の11月の川の水の中で倒れているのが見つかった。
冷たい川に浸かった母は、やがて息絶えた・・
幸人と姉の亜沙実も二人の父も、どうすることも出来ずにいた・・
ただ、なぜ母は川の中にいたのか?・・それが謎であった。

やがて、父は人が変わったように無口になっていった。


翌年の雷鳴講の時。
コケ汁を食べようとしていた時、轟音が鳴り響いた。どうやら雷電神社の拝殿に落雷したらしい。
その落雷のために、そのすぐ近くにいた姉、幸人の姉、亜沙実は命こそ助かったものの片方の耳が聞こえなくなり そして落雷の感電で大きな消えぬ傷が体に残った・・
幸人も記憶が断片的に失われていた。
姉と幸人が病院で手当てを受けていたその深夜、「シロタマゴテングダケ」による食中毒が発生、雷鳴講のコケ汁に猛毒のキノコが混入されていたためであった・・二人が死に至り、二人が重症となった。
やがて、幸人の父がコケ汁に「シロタマゴテングダケ」を入れたのではないか・・と噂になっていった・・

 

 

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埼玉県で小料理屋を営む藤原幸人。
あれから15年、夕見は19歳になっていた。
あれから「アザミの鉢」の事は一切触れていない。
あの母の事故と思われた死も、あの村で起こったキノコの食中毒事件の事も話題にはのらない。
なぜ、誰があのコケ汁の中に毒キノコを入れたのか・・ほんとうに入れたのは、父だったのか?


平穏な時が流れていたように思っていたそんな時、一本の電話が幸人にかかった。「アザミの鉢の事を知っているぞ・・」と、電話の向こうの男が不気味に言った。
その脅迫電話が惨劇の始まりだった・・


あの忌まわしい毒キノコ事件から30年後、幸人と姉の亜沙実、そして娘の夕見は、名前を変えて、羽田上村へ向かった。
30年前の、あの事件の真相が知りたいという思いからであった。毒キノコのコケ汁への混入、入れたのは、父だったのか?母はなぜ死ななくてはならなかったのか。
名前を変え村に入った3人。年数と時間の流れが、3人の素性を隠した。
3人は、只々、真実を知りたかったのだった・・

 

 

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幸人の一家に起こったさまざまな悲劇が、丹念に描かれています。
なぜ、コケ汁に毒キノコが混ざっていたのか、キノコを入れたのは父だったのか、なぜ、母は、冷たい川に入らねばならなかったのか・・
それらを含めて、村のいろいろな人々の運命が刻々と分かっていきます。


そして、最後に知った驚愕の事実。
その事実に向かうストーリーが、なぜ、この一家が悲劇にあってしまったのか?と、問います。

確かに・・・最後の「事実」はあまりにも衝撃的!

見たくなかった、知りたくなかった・・様な気もしますが・・・


昭和の時代に、平穏に暮らしていた幸人一家に降り注いだ数々の災難。
読み終えて、「悲惨・・」という言葉が頭をよぎりました。

 

 

 

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