昭和46年5月25日 発行
平成18年11月15日 第110刷 新潮文庫
九州の鹿児島本線で門司方向から行くと、博多に着く三つ手前が香椎(かしい)駅である。小さな駅だ。
そこから海の方に行くと博多湾を見渡す海岸に出る。
朝、明けたばかりの海岸で一組の「心中死体」が見つかる。
完璧なまでの「心中」である。この男女の二つの死体の間は殆ど隙間もなく、
脚もきちんと揃えられていた。男も女も顔はバラ色にほのかに染まっていた・・
安田辰郎は割烹料亭「小雪」を度々利用している。職業は「機械工具商安田商会」である。
その日、安田は小雪の女中の八重子ととみ子をコーヒーに誘った。
楽しく飲んでいたがやがて安田は「東京駅まで俺を送ってくれないか、淋しいから」と告げる。
「いいわ」二人は即座に答えた。
東京駅の十三番ホームで見送ろうとしていた時、安田が言った。
「あれ?あれはお時さんじゃないか?」と。
お時はやはり「小雪」の先輩女中だった。
「あら!ほんと」
二人の女中が見つめた先には、先輩格のお時が若い男と共に、列車に乗ろうとしていた。
三人は十五番ホームのそのお時と若い男をびっくりして見ていた。
その二人が、博多湾のとても寂しい海岸で心中死体となって見つかったのである・・
ただ一人 博多のベテラン刑事・鳥飼重太郎は不審な感じを受けた。
この一見心中事件と思われた事件が 思いもかけぬ方向へと進んでいく。
しかし、犯人と思しき人物には、鉄壁のアリバイがあって、事件は難航を極めていく・・
そして、本庁の若い刑事・三原紀一の執念が、一歩一歩事件の深みに歩みを進めていく。なぜ・・安田は東京駅の十三番線ホーム上から 十五番ホームの寝台急行あさかぜに乗る男とお時を見たのか、なぜ、二人の女中にそれを知らせたのか・・
時間的に混み合う列車の たった数分の間の、出来事を・・である。
松本清張氏の名作中の名作ですね。
心中という「点」から発展していく「線」へ・・
何とも面白い作品です。
博多の鳥飼重太郎と 東京の三原紀一の、正に「執念」が事件の解決へと進ませたのでしょう。
東京駅の13番線ホームからの目撃の、たったの数分間の列車の空きがあった事を突き止めた辺りから事件が進んでいきます。
また、心中事件の前の夜に目撃された女。こちらも重要になってきますね。
もう何年も前に読んだ小説をまた読み返してみました。忘れていたことなど思い出します。また、テレビでの放映も見ました。そんなことも懐かしいです。
いい本はいつまでも心に残っていますね。(*^-^*)