徒然草

つれづれにさまざま書いています。

「十津川警部の標的」 西村京太郎

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十津川警部の標的」 西村京太郎

        光文社「カッパノベルス」1994年9月25日初版

 

① 十津川警部の標的
② 十津川警部いたちを追う
③ 十津川、民謡を唄う

 

「十津川、民謡を唄う」

十津川は、難事件を解決し、新宿で捜査員全員と酒を飲んでの帰り道駅から自宅に歩いて向かっていた。暖かい夜で、その上、酒の弱い彼もいくらか飲んで少し酔っていた。自然と鼻歌が出た。そうして公園のそばまで来たときふと、きれいな女の歌声が聞こえてきた。

   出雲名物ゥ 荷物にゃならぬゥ
    聞いてェ お帰れェ 安来節

   好きなお方にィ 助け舟ェ
    末は社長のォ 奥方にィ なれる約束~

ふと、街頭の灯りの下に彼女が現れ、十津川に声をかけてきた。
「旦那さん、タクシーに乗るには?」
十津川は「表通りに出ないと」と、道を教える。
彼女は、「ありがとう、旦那さん」と角を曲がっていった。

「旦那さん」と呼んだ彼女は、どこかの芸者であろうか?
十津川はそんな事を思い、また彼女の素晴らしい声と歌を思い出していた。


その数日後のこと、多摩川原橋の近くの河原に、女性の死体を見つけた。
捜査に十津川班が向かう。
その遺体の顔を一目見た十津川は「あっ!」と思わず声を上げた。
「ご存知の方ですか?」亀井刑事が声をかける。
その女性は、あの夜、流ちょうな「安来節」を唄い、「旦那さん」と声をかけてきた、まさにその人物であった・・

彼女の唄っていた「安来節」は「正調」ではなく、歌詞を変えて唄った、と言う事も分かった。また普通芸者は「お客さん」と相手を呼び、「旦那さん」とは言わないような事も分かってくる。

十津川は亀井と共に、安来節のふるさと、山陰に向けて旅立った・・


殺された女性は、玉造温泉の芸者・美雪。
やがて、彼女が、1億5千万円ものお金を、どうやら貢いだことが分かり、その相手は東京に住む男ではないか?と、十津川班は突き止めていく。

  好きなお方にィ 助け舟ェ
    末は社長のォ 奥方にィ なれる約束~
・・・と、あの夜唄っていた美雪、この歌詞のように、末は男の妻になれることを夢見ていたのだ・・と、十津川はあの夜の、流れるようなきれいな唄を思い出していた・・

懸命な捜査の末に、一人の男が浮かぶ。
ガンっとして、容疑を認めない男。1億5千万円を奪い、さらに、命まで奪った男に、
十津川はどうやって犯行を認めさせるのか・・

 

    

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男の巧妙な「口車」に美雪は乗せられ、殺され遺棄されてしまった。彼女が歌っていた、歌詞を変えての安来節が、何とも切ないような気がしました。
しかし、その安来節が、最後に犯行を認めさせることになるのです。
美雪の魂がそうさせたのか、はたまた、十津川警部の犯人を許さない意志がそうさせたのか、は、分かりません・・

 

本には ショートストーリーが3篇収録されています。
かなり古い本を持ち出して読み返しましたので、ネタバレがあるかもしれません。  

 

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季節が設定されていないような気が・・

でも、私的には、「暖かい夜」の一言で、椿の咲くころ、二月ではないか・・と、感じました。

 

 

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